東京地方裁判所 昭和37年(わ)6669号 判決
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〔判決理由〕本件起訴状記載の公訴事実第二の二は、
被告人は昭和三七年二月初旬ごろ太田垣蓁から、同人が三和銀行神田支店から借り入れてあつた三百万円を支払うため、他から融資を受け、その金を同支店に支払うことを依頼され、同年二月二日東京郡千代田区神田小川町一丁目七番地平岡事務所において、安全信用組合から右太田垣蓁のため借入れた現金百十七万四千二百八五円を受け取り同人のため保管中、ほしいままに同日同所において自己の債務の弁済に当てるため着服横領したものである。
というのである。<証拠>を総合すると、被告人が太田垣蓁から右公訴事実のような依頼を受けて同人のため安全信用組合に金融を申し入んだ結果二百万円借りられることになり、昭和三七年三月二日前記被告人の事務所において同信用組合職員松本厳から現金百十七万四千二百八十五円(二百万円から以前の手形貸付金七十万円及び利息等を差し引いた金額)を受け取りながらこれを太田垣の依頼にかかる借金の返済に入金せず、自己の当座預金口座に入金して小切手の支払にあてるなど自己の用途に使用したことが認められる。(中略)
しかしながら、右安全信用組合からの二百万円の借入れは、借主を被告人が代表取締役であるヤマサ食品株式会社とし、返済のため同会社振出しの約束手形を差し入れ、かつ同会社名義の右信用組合に対する定期積金(当時の掛金累計約七十万円)を担保としたものであることが明らかであり、右ヤマサ食品株式会社は実質上被告人の個人経営と認められる上に、本件訴因においては太田垣蓁のため保管中の金銭を横領したことが問題となつているのであつて被告人と右ヤマサ食品との関係は何ら問題とされていないから、本件においては右ヤマサ食品と被告人とを同一視し、右借金の借主は被告人であるといつてもさしつかえないのである。もつとも、太田垣も右借入れのため親戚にあたる小泉の土地家屋を担保に提供したことが認められるが、この事実があるからといつて太田垣が借主であるとは認められない。そうして見ると、被告人は本件金銭を太田垣のため使用することを約して借り受けたのではあるが、自己が借り受けたのであつて、前記のように被告人がこれを受け取り、所持している限り、その金銭は当然被告人に帰属し、これを太田垣の物ということはできない。従つて、被告人の前記所為は、太田垣の信頼にそむきその提供した担保物を濫用したいという非難は免れないけれども、「他人の物」を横領したものとは認められない。(小野慶二)